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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)752号 判決 1978年10月12日

控訴人・被告 菅谷つや子 外一名

被控訴人・原告 柳内大三郎

訴訟代理人 山本宏

主文

原判決中被控訴人の本訴請求を認容した部分を取り消す。

被控訴人の本訴請求を棄却する。

原判決中控訴人の反訴請求を棄却した部分に対する控訴人の控訴を棄却する。

訴訟費用は本訴反訴を通じ第一、二審ともこれを二分し、その一を控訴人らの、その余を被控訴人のそれぞれ負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

原判決を取り消す。

被控訴人の本訴請求を棄却する。

被控訴人は控訴人らに対し金一、〇〇〇万円及びこれに対する昭和四七年七月七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、本訴反訴を通じ、第一、二審とも被控訴人の負担とする。との判決ならびに右第三項に対する仮執行の宣言。

二  被控訴人

控訴棄却の判決。

第二主張

原判決事実摘示中該当部分をここに引用したうえ、次のとおり附加する。ただし、被控訴人の主張のうち契約成立の日が「昭和五〇年一〇月二三日」とあるのを、「昭和四三年一〇月二三日」と訂正する。

一  被控訴人

1  被控訴人は建築士の資格を有しない大工の親方であり、従つて本件建築工事を建築基準法及び建築士法の規定に従つて適法に遂行するためには、第三者である一級又は二級の建築士に依頼して、建築設計ならびに工事監理を行わせなければならないこととなるが、本件請負代金にはそのような費用は見込まれておらず、そのことは控訴人らにおいても契約締結当時熟知していたものである。

2  被控訴人は、本件請負契約によつて厳密に建築基準法の定める基準に適合した建物を完成することを義務づけられていた訳ではない。すなわち、1に述べた事情もあり、かつ控訴人らとしては有資格建築士に設計あるいは建築工事を依頼し、建築基準法に適合した建物を建築しようとすれば建築費が嵩むことを心配して、被控訴人に本件工事を請負わせたものであつて、控訴人らははじめから建築基準法の定める基準に適合した建物ができることなどは期待していなかつたのであるから、本件契約には、被控訴人の完成すべき建物は通常の使用にたえるものであればよく、建築基準法の定める基準に適合するものであることを要しない旨の合意があつたものである。

3  しかし被控訴人の完成した本件建物は控訴人らが出した要求ならびに指示を殆んどみたしているのみならず、完工後提出された建築確認申請添付の図面ともおうむね一致しているのであるから、重大な建築基準法違反もなく、被控訴人は契約の履行を完了しているものである。

4  控訴人らのいう建築基準法違反は鉄骨の耐火被覆が一部ないこと、窓ガラスが網入りでないこと、防火扉のないこと、階段踏面の奥行が一センチメートル不足していることなどであつて、比較的些細な形式的違反であり、通常の建物使用には何ら支障がなく、控訴人らは昭和四四年五月入居以降その一部を自ら使用し、その余部を貸室として賃貸して、一八室分として一室少くとも一ケ月金一万一〇〇〇円にのぼる収益をえてすでに九年に及んでいる。このように自らは本件契約の成果を十分に享受しながら、些細な建築基準法違反を挙げて右契約の反対給付の履行を拒み、あるいは損害賠償の請求をすることは重大な信義則違反というべきである。

5  控訴人らがみずから建築主として遵守すべき建築基準法の規定に反して監理者の選任、建築確認申請手続、完工の届出を行わなかつたのに、被控訴人の基準法違反のみを云々することも信義則に反するものというべきである。

二  控訴人菅谷さわ子

1  被控訴人の右主張をすべて争う。

2  本件建築には重大な建築基準法違反があるが、控訴人らは本件契約に当り本件建物が建築基準法に従つて建築されるものと信じていたもので、完工まで同法に違反して建築されたとは知らなかつたものである。

第三証拠<省略>

理由

一  原判決事実摘示中本訴請求原因一、二の各事実及び被控訴人が建築工事を実施し、昭和四四年四月下旬工事終了して建物を控訴人らに引渡したこと、控訴人らが請負代金中金六二六万二四三六円を支払い、残額の支払いが未了であることは当事者間に争いがない。

二1  成立に争いのない甲第一、第二号証、同乙第一、第二号証、原審における控訴人つや子、原審ならびに当審における控訴人さわ子及び被控訴人各本人尋問の結果を総合すると、

本件建物建築工事は、昭和三八年ころアパート一棟を建て、これを経営している控訴人らがもう一棟のアパートを軽量鉄骨三階建で建てようと計画し、何人かの建築請負業者に当つてみたうえで、一番値段の低かつた被控訴人に注文したもので、被控訴人はそれまで軽量鉄骨三階建の建物を建築したことはなかつたが、およその見込みで附帯工事込み坪当り約一〇万円として、八八坪五合の建物を八八〇万円と見積つたものであつた。注文に当つて、控訴人らは被控訴人に対し、控訴人らの要望を記入した簡単な部分的平面図(甲第一号証)と、やはり控訴人らの具体的要求事項を列挙したメモ(甲第二号証)を渡しただけで、建築設計図の作成、建築確認申請の手続等を含めて、工事完成までの一切の業務が被控訴人の仕事とされた。被控訴人は口約束で一たん仕事を引き受けたが、念のため関係方面を調査してみたところ、どんなに低く見積つても坪当り一三万円かかることが判り、約束の代金では通常の材料、工法を用いて施工することはとても無理と思われたので、控訴人らを訪ね、右の事情を告げ、今までの話を断ろうとしたが、控訴人らから予算の都合でどうしても被控訴人にやつて貰いたいとたつて頼まれ、代金の第一回支払い分として金一五〇万円を渡されたので、一たん約束した手前引き受けざるをえず、代金の範囲内で材料の質を落すなどすればよいと考えてこれを承諾し、工事請負契約書(乙第一号証、なお同書面の末尾には「監理技師としての責任を負うためここに記名押印する。」との文言及びこれに対する被控訴人の署名押印がそえられているが、署名欄の肩書に不動文字で印刷された「監理技師」の文字がわざわざ抹消されている。)及び控訴人らの建築工事に対する具体的注文を特記した契約書と題する書面(乙第二号証)に調印して正式に請負契約を締結した。なお、そのさい被控訴人は一級又は二級の建築士の資格を持たない大工で、軽量鉄骨三階建の建築設計をすることができないので、被控訴人の娘の夫である柳沢に設計図面を引かせる旨控訴人らに言明し、控訴人らもこれを了承した。

との事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

2  成立に争いのない甲第三号証及び原審における控訴人ら両名、当審における控訴人つや子及び被控訴人各本人尋問の結果を総合すると、

被控訴人は、右契約成立後、自分で簡単な設計図を引き、工事に着手したが、その方法は、基礎工事、鉄骨工事、大工工事等に予算を配分して、自ら行う大工工事以外はそれぞれ下職に委せるというものであつた。下職にも詳細な設計、仕様は示さず、前記の設計図によりおうよその設計と予算を示すのみであつたから、杭の打ち方アンカーボルトの本数などについて控訴人らと下職の間にときどきいざこざがあり、控訴人らが文句をつけると、被控訴人や下職の方で多少の手当をしてすませるというようなこともあつた。昭和四四年四月末工事は一応終了して、控訴人らに建物が引き渡され、控訴人ら及び共同住宅の賃借人らが入居した。控訴人らは契約直後から被控訴人に対し、詳細な設計図や構造計算書の交付を求めていたが、被控訴人がこれを示さず、また入居後も屋外階段がゆらゆらする、雨もりがする、水道の出が悪い、廃水処理が不良である、各室のドアのあけたてが悪いなど種々の苦情があつたため、控訴人らは被控訴人の請求に対し工事代残金を支払わず、被控訴人は一回補修を行つたが、それでも話し合いがつかなかつた。被控訴人は請負代金請求のため昭和四五年一一月四日市川簡易裁判所に調停の申立をしたが、それでも解決に至らず、同四六年六月七日不成立に終つた。

との事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

3  原本の存在及び成立に争いのない乙第四号証、原審証人加賀谷昭夫、当審証人長谷川美明、同柳沢勲の各証言及び原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果を総合すると、

本件工事の建築確認申請は、建築主控訴人さわ子の代理人長谷川美明名義で、工事完了のかなり後である昭和四五年一月ごろなされ、これに対し同年二月一〇日確認通知がなされた。右確認申請に添付された設計図書のうち相当部分は被控訴人の娘の夫である訴外柳沢勲(市川市役所の営繕課吏員であるが、一級又は二級の建築士ではない。)が被控訴人から簡単な間取図のみを示されて、これをもとにして、工事のためにではなく、確認申請のために作成したものであり、その余の部分は、一級建築士である長谷川美明が被控訴人の依頼を受けて作成したものである。また被控訴人は右確認関係書類作成の費用として長谷川に対し、金一万円の謝礼を支払つた。なお、本件工事の完工届は提出されなかつた。 との事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

4  原本の存在ならびに成立に争いのない乙第三号証、前出加賀谷証言、原審における控訴人ら、当審における控訴人つや子の各本人尋問の結果を総合すると、

控訴人らは本件紛争が表面化した後の昭和四六年一〇月ごろ市川市役所に本件建物の工事不良について相談を持ち込んだところ、市川市長は建築基準法第一二条第三項に準拠するとして一級建築士梅沢幸作に本件建物の調査を依頼し、右梅沢は調査のうえ報告書を提出し、市川市長はこれに基づいて確認手続上の建築主である控訴人さわ子に対し、改善勧告を発した。それによれば、本件建物は、耐火構造として要求される外壁、柱、梁、床についての鉄網モルタルの被覆が不完全であるかまたは欠損していること、窓に網入ガラスを用いず、防火扉がついていないこと等建築基準関係法規の定める基準に適合していないのみならず、構造上にも極めて不完全かつ地震の場合倒壊の虞れがあるなど不安な建物であり、これを法規に適合するように補修することは不可能に近く、仮りに可能であるとしても極めて多額の費用を必要とするとされている。もつとも同人は調査にあたつて確認申請に添付された設計図書を参照し、建物を現状のまゝ観察し、かつ、控訴人らの言い分を聞いてこれを行つたもので、地下部分、建物構造の内部を切り開いて調べた訳ではなく、右報告書には推測に亘る部分もある程度含まれている。

との事実を認めることができ、右認定を左右する証拠はない。

三  以上認定した事実関係から、更に次の1及び2の事実を推認することができる。前出各本人尋問の結果中これに反する部分はいずれも措信できないし、他に右推認を左右する証拠はない。

1  控訴人らは、被控訴人が建築士の資格を有しない大工であり、従つて鉄骨造三階建共同住宅の設計ならびに工事監理をすることができないことを知りながら、建築費を安くあげたい一心から、これに格安に請負わせたものであり、被控訴人が設計図面を引かせると約束した訴外柳沢勲についてもその無資格者であることを知つており(もし同人が有資格の建築士であるとすれば、同人に対する設計報酬が当然問題となるはずであるのに、その点が当事者間で問題とされた形跡はみあたらない。)、かつ、建築関係法規についてもかなりの知識を有していたものである。また控訴人らは本件請負代金額が市価に比して格安であり、この代金額で通常の材料、工法を用いて工事を実施することは著しく困難であることも十分認識していたもので、従つて被控訴人が完成すべき建物が一般の建物に比してある程度劣ることも、建築基準関係法規の定める基準に適合しない点を生ずることもあらかじめ容認しており、(なお前掲甲第二号証に記載された要求事項には、注文建物がこれらの基準に適合することを求め、ないしはこれを配慮したことを窺わせるようなものは存在しない。)控訴人らと被控訴人との間にはその旨の暗黙の合意があつたものとみられる。

2  被控訴人の完成した建物は、市川市長の改善勧告書に指摘された個別的な建築基準関係法規の定める基準に適合しない点があるのみならず、まつたく構造計算を行わず、ずさんな設計に基き、劣悪な材料と工法を用いて建てられたものであり、直ちに危険といえないまでも、地震、火災その他の非常事態に対する安全性の保障があるとは認められないものであり、また通常の維持費を投入した場合に、通常の耐用年数を有するものとは到底いえないものである。

四  そこで前記認定事実に基づいて本件本訴請求および反訴請求の当否について検討する。

前記認定によれば、本件建物建築請負契約の締結にあたつては、注文者である控訴人らにおいても、また請負人である被控訴人においても、当初から建築基準法に準拠して建築工事を施工するということは念頭になく、専ら一定の予算金額の範囲内で一定の規模と内部構造を有する軽量鉄骨三階建アパート用建物を建築することのみを眼中に置いて契約が締結されたものであり、その結果次のような建築基準法違反の瑕疵を有するものである。すなわち、

(一)  軽量鉄骨造三階建共同住宅(延面積八八・五坪)は、建築基準法(昭和四五年改正前のもの。以下同じ)第六条により特殊建築物とされ、建築確認等の手続について特別の扱いがなされ、安全の確保のため各種の特別の構造上の基準が設けられているほか、建築士法第三条の二、第一項、第一号及び第二号にも該当するから、建築基準法第五条の二、第一項により、その工事は一級又は二級の建築士の設計によらなければならず、同条第二、第三項により建築主において一級又は二級の建築士に工事監理をさせない限りすることができないものとされているのに、本件建築においては建築士でない被控訴人が自分でした設計又は建築士でない訴外柳沢のした設計によつて工事を行い、かつ、その工事監理を行うことが合意されており、その点において本件契約はすでに形式的に前示各法条に反する契約というべきである。

(二)  本件建物は軽量鉄骨造三階建共同住宅であつて建築基準法第六条第一項、第一号、第三号に該当するところ、その建築には、当該建築につき同条による建築主事の確認を得、その工事完了後は、同法第七条により右建築物が法令に適合するかどうかについて検査を受けなければならないとされているが、本件建物の建築は、建築確認の基礎となつた設計図、構造計算書等とは無関係に、別に作成された設計図に基づいてなされたものであり、工事完成後の検査を経ておらず、しかも建物自体建築基準法所定の安全基準に合致しない点をかなりの程度において帯有し、現に抜本的改築を施さない限り危険性があるものとして市川市長から改善勧告が出されており、反証のない本件においては、このような危険性を有する建物であると推認せざるをえない。そして本件建物に存する右の瑕疵は、仮にその出来上つた建物と控訴人らの注文したところのものとの間に細目において多少の相違があるとしても、その基本的な点においては前記のとおり当初の契約締結時から予想されえたところのものであつて、契約どおり工事が施工されれば起りえなかつたようなものとは認められないから、本件請負契約には、この点においても建築基準法違反の瑕疵があるというべきである。

ところで、建築基準法が同法にいう建築物の建築につき規制を施し、種々の制限規定を設けているのは、建築物の敷地、構造および用途に関して最低の基準を定め、これによつて国民の生命、健康および財産の保護をはかるという一般公益保護の目的に出たものであるが、同法に定める制限の内容は広範多岐にわたり、各規定が右公益保護上必ずしも同一の比重を有するとは限らないし、また具体的な建築物の建築がこれら規定に違反する程度も区々にわたりうるから、特定の建物の建築等についての請負契約に建築基準法違反の瑕疵があるからといつて、直ちに当該契約の効力を否定することはできないが、その違反の内容および程度のいかんによつては、当然右契約そのものが強行法規ないしは公序良俗に違反するものとして無効とされるべき場合がありうることを認めなければならない。これを本件建物建築請負契約の帯有するよ記(一)および(二)の建築基準法違反の瑕疵についてみるのに、まず(一)の点についていえば、法が本件建物のような法のいう特殊建築物の建築について右(一)で述べたような制限を設けているのは、この種の建築物については特にその安全性の確保のためにこれらの規定による規制措置が必要であるとされたためであると考えられるから、かかる建築物の建築においては、これらの規定の遵守が特に強く要請されるものと考えなければならない。そうすると、建築主が法定の建築士たる資格を有しない者との間で、その者において右の資格を有する建築士の作成する設計図に基づいてではなく、自らの作成した設計図に基づいて、また右有資格建築士の監理をも受けることなくこの種の建築物を建築する旨の請負契約を締結した場合には、右契約の内容をなす工事の施工自体が右建築基準法の規定に違反し、強い違法性を帯びるものであるから、建築主が請負人に対して契約に基づく権利としてかかる違法工事の施工を強制することも、また請負人において右工事を施工したことに対する報酬をその権利として要求することも、共にこれを許すべきではないと解するのが相当というべきである。それ故、本件建物建築請負契約は、前記(一)の瑕疵を有するものとしてすでにこの点において無効とせざるをえない。のみならず、更に(二)の瑕疵についてみても、本件建物は建築基準法がこの種の建築物につき安全性確保のために設けた基準に著しく違反し、建物自体が適法な建築物として存立することを許されないような性質のものであるから、その瑕疵は重大であり、かかる瑕疵のある建物の建築を内容とする請負契約は、前記(一)の瑕疵について述べたと同様の意味において強行法規ないし公序良俗に違反するものとしてその効力を否定されるべきものである。もつとも、建築主は往々にして建築関係法規の技術的内容に明るくないことがあるから、契約の内容とされた建物がこれらの法規に違反する構造等を有するものであることを知らず、そのために右契約が無効とされれば不測の損害を受けるおそれがないとはいえないが、建築主としては当然に右の点について配慮し、契約締結の際請負人に対して法規に適合する建物であることを確認すべきものであつて、建築主がこのような配慮をする限り、あるいは契約自体が適法な建物の建築を目的とする契約と目され、現実に違反建築物が建築されたことに対し請負人に契約違反の責任を追求することができるか、あるいは契約自体は特定の構造、内容をもつ建物の建築を目的とするものであつても、それが適法な建物であると建築主が信じたことにつき請負人側に責任があるとして別にその責任を追求することができることとなると考えられるから、上記のような解釈をとつても格別の不当は生じないのである。本件においては、建築主である控訴人らが全くかかる配慮をせず、契約どおりの工事を施工することによつて前記のような瑕疵のある建物が出来あがることをも容認するような趣旨内容の契約として本件請負契約が締結されたものであること前記のとおりであるから、右契約はこの点からもこれを無効とすべきものであり、かく解することになんら妨げはない。

そうすると、本件建物建築請負契約が有効であることを前提とし、右契約にかかる工事を施行したことに対する対価としての請負代金の未払分の支払を求める被控訴人の控訴人らに対する本訴請求は、すでにその前提において理由がなく、また、控訴人らの被控訴人に対する反訴請求も、控訴人らが被控訴人に対して右契約に基づきその約定どおりの工事を施工することを請求する権利を有し、被控訴人がこれに対応する義務を負担することを前提とするものであるから、これまたその余の点に立入るまでもなく失当に帰するものといわざるをえない(もつとも本件においては、控訴人らも被控訴人も共に本件請負契約が有効であることを前提としてそれぞれの請求をしており、右契約の効力自体は争点とされておらないが、本件請負契約が強行法規違反ないし公序良俗違反とされる基礎事実自体は当事者の主張中に含まれているところであるから、証拠によつてかかる事実の存在が認められる限り裁判所としては右のような当事者の主張態度にかかわらず、かかる強行法規ないし公序良俗に違反する契約の効力を否定し、これに基づく請求を排斥することができるし、またそうすべきものである。)。

五  以上の次第で、原判決中上記説示と異なり被控訴人の控訴人らに対する請求を認容した部分は失当で、控訴人らの本件控訴中右部分の取消を求める部分は正当であるからこれを認容すべきであるが、控訴人らの反訴請求を棄却した部分は結論において相当で、この部分の取消を求める控訴は理由がないからこれを棄却すべきものである。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九二条本文、九三条一項本文を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中村治朗 裁判官 石川義夫 裁判官 清野寛甫)

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